絶景のビーチを、潮風と走れ!

更新日:2021年02月01日

日本のベストビーチ 「千里浜なぎさドライブウェイ」

 

能登半島のちょうどつけ根あたり、宝達志水町の今浜からスタートする「千里浜なぎさドライブウェイ」。

砂浜を延々とドライブできる海岸は、日本ではここにしかなく、世界を見回してもほんのわずか。

 

トリップアドバイザーアワード「世界のベストビーチ」で、2016年にはベスト1位、2020年にはベスト2位に選ばれた日本を代表するビーチの一つだ。

 

なぎさを走るバイク

全長約8キロの海岸ドライブウェイ。波打ち際の走行を楽しめる。

海水浴を楽しむ男の子

夏場は人気の海水浴スポットに。

 

 

奇跡の砂がこのなぎさをくれた。

 

クルマで砂の上を走れば、たいていはタイヤがはまって四苦八苦するのに、どうしてこの海は大丈夫なのだろう。その鍵を握るのが、「砂」だ。

 

よくある砂粒は、直径がほぼ0.5~1mmでサイズもまちまち。ところが、なぎさドライブウェイの砂は約0.2mmと細かく、大きさもそろっている。その上、石英が混ざって角ばっているから、水分を含むとキュキュッと固く締まってクルマの走行が可能になるのだ。

 

 

なぜこんなに特別なのかといえば、それには地形が大きく関係している。

ここの砂は、数十キロも離れた手取川や近くの河川から、海流や季節風によって運ばれてきたものだ。日本海の荒波にもまれ、千里浜の北にある滝崎という小さな岬にぶつかって何度も押し戻されたりするうちに、砂はより細かで粒ぞろいになり、長い時間をかけて堆積する。

そうやってできた砂浜だから、近隣にも同様のビーチがあるにもかかわらず、クルマで走れるのはここしかない。まさしく偶然の産物、自然がくれた奇跡である。

 

なぎさドライブウェイの砂が小さい理由

 

 

バスの運転手が奇跡の発見者?

 

そんな日本唯一のなぎさも、昔はありふれた砂浜の一つだった。見晴らしの良さが買われて幕末には、外国船の侵入に備えた巨大台場や大砲の蔵が砂丘に築かれたこともある。

 

転機が訪れたのは1955年頃。ちょうど高度経済成長が始まった時期で、当時マイカーは贅沢品。鉄道や観光バスが旅の案内役であった。

 

そんな時代の、1人の観光バス運転手。

 

魚を運搬するトラックがなぎさに乗り入れるのを見て、「もしかしたらバスも通れるのでは」と思い立つ。そして、果敢にも空のバスを試走。気持ちよく走れることを実証したことが今につながったのだそうだ。

30年前の写真

昭和30年代、当時の写真

 

 

波打ち際を走る快感は8km先まで続く。

なぎさドライブウェイを空からとった写真

©能登空港利用促進協議会 提供

 

 

金沢から来る場合は、のと里山海道の今浜ICで降り、スタート地点の宝達志水町今浜海岸へ。

この今浜海岸から同町出浜海岸、羽咋市千里浜海岸へと全長約8kmにおよぶ絶景ドライブウェイが続く。

 

4輪車はもちろん2輪車だって走れるし、時には馬も自転車も走っている。

だけど、砂が白い場所や水際ぎりぎりは避けよう。

固く締まって茶色になった部分を走れば、最高の爽快感が味わえる。

 

 

夕陽も、焼き貝も、マリンスポーツも。 春夏秋冬、朝昼晩、魅力は語りつくせない。

 

お楽しみはドライブだけじゃない。遠浅の海が約8kmも続く海岸線すべてが、とっておきの遊び場だ。

絶景ウォッチングがお望みなら、青い空と海が競演する昼間はもちろん、夕陽やあかね雲、波間の残照がきらめく日没前後は絶対にハズせない。またイカ釣りのシーズンには、夜の水平線を縁取る漁火が幻想的だし、早起きして朝もやのファンタジーに出会う幸運を祈ってみるのもいいだろう。

 

海水浴、バーベキュー、ビーチバレー、水上バイク…。のんびり派ならハマヒルガオなどの植物散策や海鳥観察もオススメ。それから、ぜひ訪ねてほしいのが海辺の焼き貝店だ。潮風に吹かれて食べる海の幸は、やみつきになる味わい。

 

ただし、悪天候だとドライブウェイが通行止めになるから要注意。空のご機嫌次第なので、通れるかどうかは当日の朝でないとわからない。だけど、通行止めでも入り口まで行ってみる価値は十分。砂丘から望む荒波が、日本海の迫力を教えてくれる。

 

 

砂に刺さる道路標識。 そして、年々細る砂浜を守れ!

 

追い越し禁止マークに、速度制限表示。どこにでもある道路標識も、それが砂浜に立っているとなると話は違う。

 

このなぎさドライブウェイ、なんと公道なのである。レジャー客が増える夏の1カ月間は海岸にロープが張られて標識が立ち、道路交通法が適用される。砂と標識の不思議な組み合わせが珍しがられ、シャッターを押す人も多いようだ。

なぎさに立つ道路標識

夏の海水浴の時期にだけ、見ることができる季節の風物詩

 

 

そんな魅力のつきない砂浜だが、実は今、待ったなしの危機が迫ってきている。海岸の侵食が著しく、砂浜がやせ細っているのだ。

 

昭和の初めには今の倍以上の幅があり、運動会や祭りなども行われたというのに、1994年には約50m、そして2011年には約35mに。想定を超えるスピードで砂浜が減退している。そこで、「たった一つの砂浜を守れ!」との合言葉のもとに「千里浜再生プロジェクト」が進行中。人工リーフや土砂投入といったハード面の対策に加え、保全意識を高めてもらおうと多様な活動が行われている。

なぎさドライブウェイは、私たちにも、地球にも、かけがえのない宝物だ。奇跡の砂浜が守り継がれるように、あらゆる知恵と力を寄せ合いたい。